表と裏

 

「私の作品の表面だけを、見てくれ」。アンディー・ウォーホルは、作品から自己を排除することを望んだ。作品で取り上げるのは「有名なもの」、まさしく「表面だけ」を見られてきたものたち、それらに向けてきた同じ眼差しを、彼は要求したのだ。
 

数々のスキャンダルを忘れれば、マリリンは無二のセックス・シンボルである。また、キャンベル缶に込み入った男女関係なども封入されていない。逆に、天蓋独身なウォーホルのスター生活を暴きたいと思った人も多かったはずだ。

 

人間の裏面とは、月の裏面に等しい。ひねもす我々に背を向けつつも、例え見たところで、勝る喜びがあるとは思えない。世界一「有名なもの」月の裏面は、水もほぼなく、痘痕のような岩石クレーターが広がっているらしい。

 

それならばやはり、満ち欠けの中でスポットに照らされる「有名なもの」に、あこがれ続けていきたい。僕らは本来、ずっとそうやって生きてきたのだ。スーパームーン、夜闇をスプーンでひと匙くりぬいてしまったような月光の力強さに、心奪われながら思う。